仮名(かな)書道の上達と基礎知識”ズレの美”~行間編~


仮名(かな)書道 関戸本古今集臨書作品

 漢字作品を書くときも共通事項ではありますが、特に仮名(かな)書道は、臨書でも創作書道でも、”ズレの美”が大切です。

 

仮名書道の美は、字形、連綿、墨の濃淡と潤渇、空間などがあります。ズレの美というのは、それらが変化し同じように並ばず文字も同じようには書いていません。文字は、真名や草仮名、平仮名を織り交ぜ、仮に同字が入っていても、字形や字の懐や、線の太細、行間、面、空間が変化しています。

 

掲載は、古筆の関戸本古今集を臨書したものです。

紫で囲った歌は、古今和歌集795です。

 

(読み方)

世中の人の情は(八)花染の移やす(春)き(支)ものに(尓)ざりける

 

生徒様から知らなかったと驚かれることがある内のひとつには、”行間”のズレがあります。

 

一行目は“世”から、二行目は“の”から始まっていますが、隣同士の文字は、すべて字と字の間にありズレています。

 

一行目の“世中”の間から二行目の“尓”があり、一行目の“中の”の“中“と”のの“間から“ざ(さ)”が始まりというように、ズレています。

 

一行目の“人”と二行目の“り(利)”はだいたい並んでいるように見えても、"人"の間(三分の一のあたりで)終わり、すでに連綿から“け(介)”が始まっています。

 

795の歌だけでなく、始まりから落款を含め、終わりまですべてです。


仮名(かな)書道 関戸本古今集臨書作品

臨書の場合、最後に、〇〇(名又は雅号)臨と書き、

落款印を入れます。落款の位置は、なんとなく入れているわけではなく上記の法則を守り書いています。

 

掲載の紫で囲った部分の最終行は、”峻恵(私の雅号)臨”と書き押印しています。

 

”峻”のすぐ右は空間、その右は、を(越)と”し”の間から始め、”恵”は、すぐ右の行にある”をのゝこまち”の”を”と”の”の間に書いています。”臨”は、”こ”の少し上から書き、最後の印は、”ま”と”ち”の間に押印しています。

 

このようにすべてズラしていきますので、手本とご自身が書いてきた字をよく見ながら書いていく必要があります。

 

生徒様から、習う時に手本を折っても良いかと質問を受けます。例えば、一行目を書くときには、歌の作者や詞書を、二行目を書くときには、一行目を確認できるようにしておく必要があります。ズレの美を確認できるように。

 

字形だけに専念して練習することを目標にされている場合は別です。

 

ちなみに、落款は、作品の本文より下がらないようにします。 *落款についてはこちらにも記載しています。

掲載の作品でいえば、一番右から二行目の”とも(毛)のり(里)”の”里”がどの位置で終わっているかを確認し、天地左右の空間も確認します。